とある時期に、投資銀行勤務の男にハマっていた。
投資銀行勤務といっても、タワマンの上層階に住んで女を取っ替え引っ替え、という世間のよくあるイメージとは少し違って、ただたまたま数学が得意でお金も稼げるからその世界に入った、というインド出身の大学院上がりの若者だった。
その若者とはニューヨークで出会った。
友人には、「投資銀行の男なんて結局モデルとフッカーを取っ替え引っ替えの最低野郎になるだけだ」と忠告を受け、
そんな予言も的中し、その付き合いも数ヶ月で終わり、疎遠になった。
5年後、数年ぶりに連絡が入り、聞くと、アメリカの永住権を取得し、職場徒歩圏内のマンハッタンのとあるジム付きマンションで一人暮らしを始めた、ということだった。
5年前は、同郷の友人たちと、ブルックリンの2ベッドルームの部屋に3人で工夫して住み、冬でもビーサン、部屋には謎の数式が書かれた紙が散乱していた、あの男がだ。
初めて会った時、ニューヨーク大学の学生証を少し自慢げに見せていたあの若者が。
色々思うところがあったが、素直に「すごいな」と思った。あのニューヨークの生き馬の目を抜くような環境で、外国人が6年以上生き残っていること。
そして、ジム付きマンション暮らしといっても、きっと服にも家具にも興味がないあの男は、今でもDellのくそ重いラップトップとモニター、職場でもらったタンブラーくらいしか部屋にないだろうと想像もついた。
ドラマ『 Sex and the City』や『Friends』に出てくるようなNYのアパートメント、あるいはマンハッタンの夜景を望めるガラス張りのコンドミニアムの住民は、実際は、数字の強さとタフさを武器に金を稼ぐ、若きウォール・ストリートの金融関係者だったりする。
投資銀行勤務で得られる破格な給料と華やかな生活を羨ましく思うのは簡単だが、その裏で金を生み出す薄暗いマネーゲームは、この映画『マージン・コール』に全て描かれている。
この映画の最後では、生き残れた者と、生き残れなかった者がはっきり示される。
会社のため、保身のために他人を犠牲にした者も、さらに別の他人のための犠牲になり、会社を去る。
そして、2008年に起きた金融危機のその後、2021年までに投資銀行に起こった諸々の大損失事件を知っている私たちの目から見ると、ここで生き残れた者も、きっとその後去る運命になっていただろうことがわかる。
金融業界は厳しい。例え平均の4〜5倍以上の年収がもらえるとしても、絶対に入りたくない世界だし私なら息さえできず片手でひねり潰されると思う。
でも資本主義の本質がここにはあって、頭から否定するだけなら、じゃあ今のお前の生活はどうやってできてるん、ととばっちりを食らうだけだ。
従順に受け入れたくはないが、この金融や経済の仕組みを知らないで通り過ぎると今後の自分の生活も危ぶまれるという危機感を覚えたいい教訓になった映画。
そして、お金と数字にしか反応できなくなった男には、二度と引っかからないようにしようという一番大事な教訓がここにはあった。