2018年10月7日日曜日

Netflixオリジナル映画”Nappily Ever After” −ヘアスタイルは女の人生を変える

2018年9月に公開のNetflixオリジナル映画”Nappily Ever After”のあるシーンが、頭から離れない。




主人公ヴァイオレットは、広告代理店で働くキャリアウーマン。美しいストレートヘアを毎日キープし、仕事も外見も隙がなく何をやってもパーフェクト。誕生日当日、2年間同棲しているボーイフレンドからのプロポーズを期待していたところ、子犬をサプライズプレゼントされ、そこから完璧に作り上げていたはずの生活が少しづつ壊れていく。

この映画のキーとなるテーマが「ヘアースタイル」で、ヴァイオレットは元々アフロに近い強めのカールがナチュラルヘアである。

毎朝母親が時間をかけてストレートヘアにセットしてくれていたが、子供の頃にプールに飛び込んだ際、元に戻ったヘアスタイルを周囲の子達に笑われて以来、1日もストレートヘアにセットすることを忘れたことがない。

そんな彼女が、ある出来事をきっかけに髪の毛を坊主にしてしまい、それ以来徐々に、本来自分の個性と人生を取り戻していくというストーリー。

ストーリーだけ見ると、とてもオーセンティックなラブストーリーなのだが、随所にセンスの光るシーンがあって、特に植物園での初デートでのキスシーンは、ヘアースタイルがポイントとなるラブシーンで、「坊主頭にこんな活用方法があったとは!」と思わせるとてもセクシーなシーンだった。

坊主頭というヘアスタイルは、パンクの人たちの間では昔からあったヘアスタイルだが、数年前からアメリカのヒップスターの女性がやるようになった。

元々の頭の形の良さと顔の造形の美しさがないとなかなか手を出せないヘアスタイルで、その人の度胸と美貌が試される、いわばヒップスター美女の勲章のようなもの。

この映画で、ヴァイオレットは自分と意思でなくそのヘアスタイルになってしまったわけだが、髪を剃ることで、それまでの人生の大半の時間を費やしていた髪に関するケアを考えなくてよくなり、今まで自分が囚われていた「こうあるべき」という概念からも解放されていく。

天然アフロやパーマヘアの女性が持つ髪へのコンプレックスと解放というテーマは、元々ストレートヘアの人が多い日本ではなかなか理解されにくいところではあるが、アフリカをルーツに持つ人々の間ではメイクアップよりよっぽど大きな感心事。

アフロや強めパーマを地毛に持つ人は、ヘアサロンでも、まず一回アイロンで伸ばしきってからカットに入るため、ストレートパーマをかけるにも約5時間くらいかかるとニューヨクで美容師をやっている友人から聞いた。

さらに、別の日本で美容師をやっている友人がニューヨークに遊びに来た際、黒人女性のウィッグ着用率の高さにも驚いていた。彼女曰く、黒人でストレートヘアの人のほとんどがウィッグ着用らしい。

アフロやパーマいいじゃん!と地毛がストレートの人は言うかもしれないが、それでもストレートヘアに強い執着を持つヴァイオレットのような人の気持ちには、日本人としてはかなり強めの天然パーマを持つ私としては、ものすごく共感できるところがある。

「ストレートヘアじゃないと美しくない」という固定概念への執着も、ストレートヘアに矯正することを止めたあと、自分本来の持ち味を出して行けるようになった時の「これでいいじゃん!」という開放感。

私もヴァイオレットと同じように、子供の頃、友人たちが皆きれいなまとまったストレートヘアを持っているのに、自分だけまとまりのないウェーブヘアで、雨の日は爆発頭になるのがずっとコンプレックスだった。

そのため、10歳くらいから26歳くらいまでずっと定期的にストレートパーマをかけていたし、美容師さんからも、半分商売だとは思うが「癖の強い部分にはストレート矯正をした方がいいかもね」と言われ続けていたので、そうしないときれいにもおしゃれにもならないものだと思い込んでいた。

26歳くらいをきっかけに、「もう面倒くさい。天パでいっか」とストレート矯正を諦めて以来、ずっと地毛の天然パーマでやってきている。

すると、なぜか周りから髪を褒められることが多くなり(日本では天然パーマが珍しいからかと思うが)自分にしかない個性だと認められるようになってきた。この開放感は、26年間髪へのコンプレックスと向き合い続けていた自分からすると、それ以前とそれ以降で人生が変わったといっても過言ではない。

この映画でも、ヴァイオレットが地毛に戻してから、フェイクじゃない彼女だけのオリジナルの個性を愛してくれる人だけと付き合うようになり、以前よりもどんどん魅力的な女性になっていく過程が描かれている。

ヘアスタイルの調子一つで、人に優しくなれたり、逆に不機嫌に接してしまったりすることもある女性にとっては、ヘアスタイルは本当に人生における重要なトピックスであり、大げさでなく自分が「どう生きるか」を表現するツールでもある。

"Nappily Ever After" は、そんなヘアスタイルの変化で人生の脱皮をした1人の女性の物語で、アメリカのラブコメではお決まりのあんなシーンもこんなシーンも、”ヘアスタイル”をうまく活用した結果お洒落にアップデートされている、奇をてらってないけど新しいラブストーリーだ。

監督がサウジアラビア出身の女性監督というのもNetflixらしくてよい。
”The Incredible Jessica James”や”She's gotta have it" に続く、クールな黒人女性が主役のラブストーリー企画。この企画やっている人を心から応援している!










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