2018年11月1日木曜日

Trevor Noah(トレヴァー・ノア)はコメディ界のオバマ

トレヴァー・ノアは、コメディ界のバラク・オバマと言っていい。



1983年の南アフリカ生まれで、今アメリカで最も人気のあるコメディアンの一人であるトレヴァーは、南アフリカのアパルトヘイト時代、その頃は犯罪とされた、黒人女性と白人男性の間に生まれたミックス。

「生まれてはいけない者」として生まれた幼少期は、黒人家庭の貧困地域で育ち、その後18歳でスタンダップコメディを初め、たった1〜2年で人気を獲得し、今やアメリカで看板番組を持つほど大出世した。

彼の生い立ちや南アフリカでの刺激的すぎる体験だらけの子ども時代は、彼の自伝でも読める。この自伝、本気で面白い。中高生の世界史なんかの授業で取り上げるべき。



Netflixでも彼のコメディとドキュメンタリーが収録されている番組が2本ほどあって、その一つが上に挙げた”Afraid of the Dark".

2017年のニューヨーク公演を収録したものなので、アメリカで長年磨き上げられたスキルと芸が最高潮に達しているおすすめ作。

彼が現在最高のコメディアンの一人である理由は、まず圧倒的な知識と知性である。

世界の政治や歴史、人種差別に関するジョークをやるコメディアンはたくさんいるけど、彼の看板番組”Daily Show"で、どんな分野の専門家と1対1のトークをしても、互角に討論できる自頭のよさや鋭い物の見方を持った人は多くない。

ほんと、日本のバラエティ報道番組に出ている司会やコメンテーターの人は、トレヴァー・ノアを見て、全員勉強した方がいい。

これくらいの知識量を頭に入れて、事前に入念な準備をして考えてこないと、まともに公の場で意見なんて言っちゃだめなんだって分かる。

さらには、母国語の英語に加え、6種類の南アフリカの現地語、ドイツ語など複数の言語を操れる語学の才能と、様々な言語由来の英語アクセントを使い分けられるセンス。

”Afraid of the Dark"でも、スコットランド訛り、イギリス訛り、南アフリカ訛り、ロシア訛り、イタリア訛り、フランス訛り、インド訛り、ニューヨーク訛り、アメリカの黒人特有の話し方…等、様々な訛りを披露している。

しかもどれも「まさにその通り」としか言いようがない完成度なのである。

特に、インドがイギリスに植民地化された日をシュミレーションするジョークでは、そのアクセントだけじゃなく、インド人特有の話の切り返し方の特徴も全て掴んでいて、非現実な設定なのに「インド人がよく言いそうな言葉」のオンパレードなのだ。

インド出身の家庭に生まれたラッセル・ピーターがやるなら分かるけど、南アフリカの黒人とスイス人の間に生まれたトレヴァー・ノアが、こんなにうまい物真似をやるなんて、今までどれだけインド人を観察していたのか…。

トレヴァーは、元々イギリスやオーストラリア訛りに近い、少々南アフリカ訛りのある英語を話すが、オバマや黒人ラッパーの物真似をやるときは、完璧すぎる”黒人のアメリカ英語”で話し、これは実際うますぎて感動するレベルの職人芸である。


トレヴァー・ノアは、ストリートスマートのお手本のようなコメディアンだ。

自伝によると、10代の頃から同じストリートの子ども相手に商売をし、自力で稼ぐ力を身につけていた。ドライバーの仕事をしていたが、車を盗まれたことを機にスタンダップコメディの世界に入り、新参者に保守的な南アフリカを飛び越えて、アメリカで大成功。

アメリカでも、黒人と白人のミックスのコメディアンがここまで成功する例は今までなかったんじゃないか。しかも何を言っても品は崩さない、だらしのなさは見せない完璧主義感は、あんまり他のコメディアンには見られない特徴。

少々語りすぎたが、やっぱりトレヴァー・ノアは、このトランプが大統領になるような混乱の時代に出現したアメリカを救う存在、コメディ界のオバマとしか思えない。

外国人で、公然と人種差別される国で育ち、貧困からアメリカンドリームを叶え、さらに黒人でもあり、白人でもあるからこそ、どのグループに属することもなく、今のアメリカに中立の立場で嫌味なく物申せる存在。しかもユーモアを持って。

そんな存在は今トレヴァー・ノアしかいない!


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